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スプリント回数を安易に他の大会と比較するのは危険

2016/02/07 18:10:00

昨日フットボールチャンネルにこんな記事が上がっていました。

データが提示する厳しい現実。Jリーグの試合に“迫力”がない理由

フットボールチャンネルはあんまり好きじゃないのですが、今回はこのネタをいろいろ探っていくのでまず紹介させて頂きます。端的に書くとこの記事は日本(Jリーグ)よりドイツ(ブンデスリーガ)の方が圧倒的にスプリント数が多く距離も長いって話です。走行距離やスプリントのデータはチームの戦い方に左右される数値なので、ブンデスの方がそういうチームが多い印象は確かにあります。が、ちょっと全体的に数値の差が大きすぎかなと。

スプリントというデータが公開され始めて6年くらい経ったかと思います。各所で見かけましたが、スプリントの数は下のように大会などによって大きな差が生じています。

スプリント数まとめ

スプリント数まとめ

2010年W杯はおそらく最初にスプリント回数がレポートに載った大会。FIFAにある3位決定戦のレポート中、ウルグアイのトラッキングデータがこちら
http://resources.fifa.com/mm/document/tournament/competition/01/27/19/92/63_0710_uru-ger_uru_teamstatistics.pdf

2010W杯レポート

2010W杯レポート

マキシミリアーノペレイラはなんとスプリント188回。にも関わらずトップスピードは21.43km/h。Jのスプリント基準が24km/h以上であることを考えると「?」マークが付きますね。

たぶん初掲載ということでどこに基準を置くのか実験的な感じだったのでしょう。次の2014年の大会になると大きく減ります。
2014年大会の3位決定戦のオランダのデータがこちら
http://resources.fifa.com/mm/document/tournament/competition/02/40/43/09/63_0712_bra-ned_ned_teamstatistics.pdf

2010W杯レポート

2014W杯レポート

それでもやっぱり多め。そしてトップスピードとスプリント数がかみ合わない選手もいます。

さて、日本とドイツの話の前にイングランドのプレミアリーグの話をしますと、プレミアは公式サイトではスプリントに関するデータはないのですが、たまにメディアが記事にしていたりします。監督がクロップに代わったリバプールに関して、Goal.comがこんな記事を出していました。
Harder, faster, stronger: The stats that show Klopp has made immediate Liverpool impression
ロジャーズ監督の最後の試合とクロップ監督の最初の試合のトラッキングデータを扱った記事です。スプリントが112回増えて614回になったそうです。
614?!
しかもスプリントは25.2km/hより速い走行が対象となっています。この時点でなんとなく数え方いろいろあるんじゃねって話が見えてきます。

こう見るとJとブンデスの差はわずかなので同じ条件のようにも見えてきますが、ブンデス公式サイトのデータをいろいろ見ていくと、やっぱりブンデスの方がカウントが甘いようです。

ブンデスの試合レポートページにはMATRIXというページがあり、選手とプレーを選ぶと図に出てくるという仕組みになっています。その中にはスプリントもあって下のようにスプリントした位置が出てきます。凄い!
でそのスプリントをクリックすると距離と時速が出てくるのですが、19節のバイエルンのKimmichのデータを見ていると22.9km/hというのがありました。あれれ?
http://www.bundesliga.de/de/liga/matches/2015/19/FC-Bayern-M%C3%BCnchen-TSG-1899-Hoffenheim/Matrix/

ブンデスリーガ

2014W杯レポート

他のも見てみると24km/h未満のスプリントが5回あり、この試合のチーム全体でみると22回ありました。ブンデスはJのように何km/hが基準なのか書かれていないので不明なのですが、Jとまったく同じ条件であるかは疑問ですね。
先のプレミアやW杯も含めて考えてみると、速度の基準もそうですが「速度に対する回数」をどうカウントしているのかも疑問です。「24km/h以上で走った」というスプリント回数は、
・走っているうちの一瞬でも24km/hに達すればカウントされるのか
・24km/h以上である距離(例えば1m以上)を走ればカウントされるのか
この考え方が違うだけで数字は変わってくるのではないでしょうか。

以上の疑問を踏まえると、同じシステムを使用している同一大会内での比較なら有効ですが、裏が見えていない他の大会間でのデータ比較は説得力に欠けますね。
あとフトチャンの記事には「集中走行回数の割合比較」という表があったのですが、これも疑問。
http://www.footballchannel.jp/2016/02/06/post136135/4/

Jリーグのライブトラッキングではスピード別の走行割合を見ることができます。

Jリーグ

Jリーグ

ブンデスもスピード別と思われるデータを紹介している箇所があります。

ブンデスのスピード別

ブンデスのスピード別

フトチャンの記事内だと、ブンデスの集中走行の割合は8.73%とあります。おそらく全体の走行距離(Distance covered)に対してIntensive runs distance coveredの割合を計算したものでしょう。近い割合になります。ただ、ブンデスのサイトには定義が書かれていないため、Intensive runsがどれほどのものなのか不明です。

ここで思い出したのはFIFAのとあるレポートの存在。FIFAはすべての大会に対してテクニカルレポートを作っています。あまりトラッキングデータには触れていないのですが、唯一一度だけ女子W杯でフィジカル分析というレポートを作っていまして、ここに男子サッカーのトラッキングデータも例として載っています。
http://www.fifa.com/about-fifa/official-documents/development/technical-study-group-reports/women.html
上のリンク先にある「Physical Analysis - Germany 2011」というPDF

これにはドイツ、イングランド、スペインの男子リーグの速度別の走行集計がありまして、

FIFAのレポートより

FIFAのレポートより

となっています。
このデータだと、24km/hより速い割合は2%。21.1km/h以上だと2.9+2.0で4.9%となります。フトチャンの記事とはまったく合いませんし、ブンデスのIntensive runsが21km/h以上なのかも怪しいですね。19.1km/h以上くらいで近くなります。

フトチャンの記事の最後はツッコミどころ満載なのですが、走行距離、スプリント回数、スプリントの距離を高めたいのであれば
①ボールを前にぽーんと蹴って全員でダッシュ!
②相手チームがすぐ奪って同じように蹴ってみんなでダッシュ!!
③①②をボールを外に出さずファウルで止めることもなくひたすら続ける
をリーグの全チームがやればとても高い数値が出せるでしょう。それがリーグの「迫力」につながり、日本代表の強化につながるのかは疑問ですけど。

この件のみならず、Jリーグが掲げる「アクチュアルプレーイングタイムの増加」にも僕自身は疑問に思っています。あのデータも結局チームのスタイルに影響されますからね。リーグにいる全チームが同じようなサッカーをして面白いのかどうかと問われると僕は否定派です。

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