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デュエル勝率と試合結果の関係(EURO中心に)

2016/07/12 11:30:00

ハリルホジッチが日本代表監督に就任してから、やたらと話題になるようになったデュエル。今年のコパアメリカとEUROでは日本のメディアでもOPTAのデータを多く見かけ、最近の流行に合わせたのか各試合のデュエル勝率もしっかり掲載されていたので集計してみました。

「デュエル」とは何か

そもそもデュエルって何というところから考えないといけません。おそらく人によってこの回答は微妙にズレがあるのではないでしょうか。今回の記事ではOPTAデータを参考にするのでOPTAのデュエルについて触れておきます。

定義としてはSquawkaのページが1番分かりやすいです。

デュエル定義

デュエル定義

タックル、ドリブル、空中戦の成功に加えてファウルを受けた数が分子となり、すべてのデュエルイベント(つまり双方のデュエル勝利数の合算)が分母となるようです。

実際のところWhoscoredにあるタックル、ドリブル、空中戦の詳細とWOWOWに載っていた選手の被ファウル合計から計算したところデュエル勝率の数値と合致もしくは近い値となりました。微妙に数値がズレたのはドリブルからの被ファウルのところとか空中戦と被ファウルあたりかなと思っています。スタッツ上は両方にカウントされると思いますが、デュエルとしての計算では重複するので1つに絞るでしょう。このように、いわゆる接触プレーが発生した状況でどちらのボールとなったかがデュエル勝敗となるようです。

ただ別の考え方を持つ記事もあったので紹介しておきます。
(Football Zone)アジアの憂鬱 日本が強いのか、アジアが弱いのか
ZONEの記事です。こちらもデータ提供はOPTAのようなのですが、デュエルの説明は1vs1というより50-50のボールに対する奪い合いのような説明になっています。セカンドボール云々とありますしね。こうなるとだいぶ意味が変わってきますが、最初に紹介した計算がほぼ合致した方をベースとして話を進めます。

EURO,コパアメリカの試合結果とデュエル勝率

各大会の試合結果別にデュエル勝率を分布させると下の表のようになりました。色が多い箇所に密集しているという見方です。

デュエル傾向1

EUROの勝利チームのデュエル勝率は47-48%に多くなりました。ただ平均値を計算すると51.2%になります。コパアメリカはEUROとは違って勝利チームはデュエル勝率が高い傾向となりました。イメージ的にもそんな感じがする大会でしたがデータも合致するようです。

次にベスト4に残ったチームのデータです。全体の平均値はコパアメリカの方は見当たらなかったのでEUROのみ載せています。

デュエル傾向2

EUROのベスト4はまず優勝したポルトガルが低め。30%台を記録したのはクロアチア戦です。他の3チームは近い平均値となっていますが分布の仕方が違います。フランスは勝利傾向、ドイツは勝ったり負けたり、ウェールズは基本負けていますが、ロシア戦で高い数値を記録したため平均値が上がりました。

コパアメリカの方はやはり勝利する傾向にあります。特にアルゼンチンは全試合においてデュエル勝率が上回りました。アルゼンチンと2回対戦したチリも、アルゼンチン戦とコロンビア戦以外は勝っています。

デュエル傾向3

ベスト4以外から注目されていたチームをいくつか紹介しますと、イタリア、スペインは負け気味、イングランド、ベルギー、ブラジルは勝ちに寄っています。

これらについて、この後のデュエル勝利の内訳も加味して、見解を書きたいと思います。コパアメリカは詳細データがなかったので残念ながらここまで。

EUROにおけるデュエル勝利の内訳

ドリブル、タックル、ファウル、空中戦という要素でデュエルが計算されているわけですが、これらが合算されているのは少々抵抗があります。特に空中戦はあまり一緒に考えるものではないかなと。実際OPTAのデータが紹介される際には空中戦と地上戦で分けて掲載されることもあります。まず今回のEUROにおける空中戦勝率と地上戦勝率を分布してみました。地上戦勝率は公開されていないため擬似的に計算したものですので、若干誤差があると思われます。

空中戦勝率と地上戦勝率

空中戦勝率と地上戦勝率

優勝したのにデュエル勝率が低いポルトガルですが、空中戦勝率が低い影響が強いようで地上戦だと50%に近い数値となりました。一方でフランスはどちらも強め。デュエル全体の勝率だとかなり差があったアイスランドとベルギーですが、実は空中戦勝率は同じくらいで地上戦に差がありました。

最後にデュエルの勝利内容の割合をまとめました。チーム毎に総括します。

デュエル勝利割合

まず、空中戦勝率の高かったスペインですが、空中戦勝利数はそこまで多くありません。もともと空中戦を利用するチームではないですからね。ただ今大会はCFに高さのある選手もいますし、後ろもピケとセルヒオラモスですから、要所での空中戦で勝っていたということでしょう。スペインの試合はデュエルそのものの数が少なめでしたので、彼らにとってデュエルはほぼ無意味かもしれません。

ドリブル+空中戦が強いイングランドはアイスランドに負け大会を去りました。アイスランド戦もデュエル全体では6割に近い勝率でしたが、タックル勝利数で完敗。地上戦に強いベルギーは常に相手を上回るドリブル成功数を記録していましたが、最後のウェールズ戦だけは5回のみで負けました。ただベルギーは全試合においてデュエル勝率50%を超えています。この2チームはそれぞれデュエルの強いチームと言えますが、強みを消されたり弱みを突かれたことで負けました。準優勝となったフランスはドイツ戦以外はデュエル全勝。ドイツ戦は空中戦は勝っていますが地上戦は全項目で負けていました。現在のサッカー界をリードする存在であるドイツですが、意外にもそこまでデュエル勝率は高くなく、僅差ながらデュエルで負けた試合が3つありました。最も低かったのはやはりイタリア戦。基本ドイツはドリブル勝利数で10以上を記録していましたが、イタリア戦は6回のみでした。

デュエルの発生アクションを回避して戦うとすれば、攻撃で言えば人がいないところ(選手の間や裏のスペース)を狙っていくようなパス。守備で言えばパスカットをするか相手のミスを誘発させて奪うような形でしょうか。前者はまさにこれまでのスペインのようなイメージで、スペインのデュエル発生数が少なめなのもわかります。後者は最後に紹介する3チームがそれに該当するかもしれません。

今大会のサプライズの一つであったアイスランドは個人としての能力は低く、グラフの通りデュエル勝利が最も多いのは空中戦でドリブルはわずか。アイスランドで最も特徴的だったのはロングスローからペナ内サイドで競り勝ちこぼれ球を拾ってシュートにいくような形でしたが、ロングスローをするには相手のボールがアウトさせる必要があるわけで、うまく相手をハメる必要があります。この守備から攻撃の流れがうまくいけば、デュエルが発生するのはロングスロー後の空中戦のみ。その空中戦も斜めに走り込みながら頭で落とそうとしていたので、相手DFが付いていけてなければ空中戦にならないわけです(さすがに後半戦はバレバレでしたが)。そこまでロングスロー一辺倒だったチームではないですが、相手の長所を抑え自らの長所を引き出す戦い方ができるのはとても重要なことです。

タイプは全然違いますが、相手の良さを消すことに関してはイタリアは最強。イタリアもスペインほどではないですが1試合におけるデュエル発生数は少なめ。ドリブルはもちろん少なく、空中戦もそこまで多くありません(ペッレをターゲットにしたボールは幾つか見ましたが)。一番目立つのは被ファウルでしょうか。ドリブルはそこまで多くないのに被ファウルが多いとなると、やはりファウルをもらうのが上手いのでしょうね。

優勝したポルトガルもこれらのチームに近いと言っていいかもしれません。過去のポルトガルのイメージだと4-3-3でウイングがドリブル勝負みたいなところがあり、今大会のイングランドのような感じなのでしょうが、ポジションチェンジが激しい今回のチームはそういったところは少なく、守備面での奮闘が目立ちました。奮闘といってもデュエル的というよりは相手のスペースを削除する部分でしょうか。結果つまらない試合が多くなったのですが、ポルトガルが従来のスタイルから外れたこの戦い方を選手が実践しタイトルを獲得できたことは賞賛に値すると思っています。ブラジル、ドイツと同様にポルトガルもパウレタ、ヌーノゴメス以降CFタイプの代表クラスが現れず苦慮していましたからね。最後はエデルが決めましたが。

長くなりましたが、デュエルの勝率そのものが必ずしも勝利に直結するとは言い難いです。もちろん局面における対人戦の勝利は重要ですし、世界の上位に行くなら何らかのデュエルでの勝利が必要になるのでしょうが、重要なのは代表にどういった選手がおり、自チームはもちろん相手の長所、短所を見極めどういった戦術をピッチで実践できるかというところでしょうか。当たり前な結論ですけどね。どうも日本のメディアはフラット3だ、パスサッカーだ、デュエルだと代表の一部分だけを誇張して取り上げているケースが多いので、もうちょっとトータルでサッカーを見て欲しいなぁと思っています。

EURO2016 データページ

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