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FIFAワールドカップのテクニカルレポートに出てきた新しいデータとその課題

2018/10/22 20:43:00

先日FIFA.comにてロシアワールドカップのテクニカルレポートが公開されました。同レポートは昔から発表されているものですが、今大会はデータの使用量がさらに増え、過去にないデータも掲載されましたので、その中身と課題についてまとめてみました。

今大会のレポートはこちら。
FIFA Technical Study Group publishes 2018 FIFA World Cup Russia report

過去のFIFAの大会はこちらにあります。
Technical Study Group reports

テクニカルレポートは各大陸連盟も出しているケースがあります。今回は触れませんが興味のある方はこちらもどうぞ。
UEFA EURO 2016 Technical Report
2017/18 UEFA Champions League Technical Report
TSG Report: AFC U23 Championship China 2018
AFC Champions League 2017 Technical Report

さてロシアW杯のレポートですが、各チームのページに以下のデータが掲載されています。

レポートの最後に大会全体のサマリーが載っています。チームで紹介したデータを中心にランキンググラフ化した感じです。

Team Shape Data

この中から目新しいデータだけ紹介します。最初に平均ポジション関連の話です。平均ポジションはJリーグでも中継で使われているので目新しいと言えないかもしれませんが、解説者も含めて誤解や勘違いをされているケースが多いデータとなっています。その一つとして、平均ポジションはボールタッチベースで作られているケースと攻撃チームに関わらずインプレー時全ての動き(セットプレーは除かれているかもですが)を捉えて作られているケースの2種類あり、多くの場合前者のデータであることが多いです。把握している限りでは、有名どころの大会で後者のデータを公開しているのはW杯と欧州CLとイタリアのセリエAのみかと思われます。トラッキングデータが必要となるため、データ生成のハードルが高いのでしょう。両者のデータの大きな違いはボールタッチベースの場合、相手保持時のポジショニングが反映しづらい(クリアとか奪ったプレーのみが計算対象となる)ため、ポゼッションに差がある試合だとボール保持できていないチームの平均ポジションがおかしな感じになると思います。また、ボールに触らないとデータができないので、母数が少ない平均データと言えますね。

もう一つの罠はあくまで「平均」ポジションであることです。先日とあるJリーグの試合にて選手の平均ポジションが表示された際、サイドの選手が中央付近にいた表示となっていたため解説の方が「サイドが使えていない」という解説をしたのですが、単純にそれらの選手が試合途中でサイドを入れ替えただけの話でした。例として挙げるならば「5,5,5,-5,-5,-5」の平均は0、ということですね。データを理解した上で且つしっかりと試合を見ていれば気付く内容ですが、画面に映ったものについて次々に喋らないといけない実況解説の方々には難しいのかもしれません。

長くなりましたが、以上の点を踏まえてW杯のレポートにある平均ポジションを見てみましょう。In PossessionとOut Possessionに分かれていることから、前述の通りボールタッチ時以外のポジションデータも計算対象となっていることが分かります。そしてそのポジションデータからそれぞれの面積やラインの高さ、横幅、縦幅といった数値まで出ています。平均ポジションだけなら以前から各試合のレポートにありましたが、ここまで表示されたのはW杯では初めてになります。小さく注意書きがありますが、この図のポジション(点の部分)については1試合のデータから作ったもので、面積や各距離については大会全体から計算されたものとあります。従来のピッチ幅の距離に対して掲載されている距離の数値が合わないのはそれが理由でしょう。確かに試合を横断して平均ポジションを作るのは面倒そうです。試合途中にポジションを変えた選手の処理が気になりますが、この平均ポジションは選手名が表示されていないので、点を計算する対象を単一の選手とせず細かいポジション(LWB,RCBみたいな)を軸に集計しているのではないかと推測しています。

これらの数値についてはFIFAから説明動画が発信されています。
Team Shape Data Explained (YouTubeのFIFA TV)
大変興味深いデータですが、どう捉えるかは大変難しいところです。「コンパクトな守備」という用語をよく聞くので面積や縦幅横幅は狭い方がいいのかと思いがちですが、Out Possessionの面積や縦幅が極端に狭いチームは早々に敗退したチームが多く、低い位置でブロックを作ったチームが中心となっています。前から取りに行く場合、前からといっても最終ラインの選手まで前に行くわけにはいかないので、彼らはたいていハーフウェーライン近辺に残ります。よって縦幅は40mくらい伸びてしまうので数値だけを見ればコンパクトとは言えない状況になりますが、連動したプレッシングにより相手の攻撃を潰せば守備としては成功になります。そう考えると面積や幅だけでなくラインの高さもしっかり見ておく必要はあるでしょう。ただそれでも相手保持時でひとまとめにするのではなく、守備の状況や目的によってデータを分けチームの課題を把握しやすくなるといいのかなと思いました。ボール保持時の方の数値もチームの良し悪しというよりは、チームのスタイルを表したものと考える方が妥当でしょう。

Bypassed

もう一つ、平均ポジション系データの下に「Bypassed Opponents and Defenders」というデータ項目があり、図と数値が2つあります。図はどのチームも同じなので、データの説明を加味したイメージであり実際にこういうシーンがあったというものではないようです。ということで横の数値がこのデータの答えとなります。

このデータについては最近メディアで取り上げられている「パッキングレート」という指標に近い考え方かと思います。データ会社が違うと思われる点とパッキングレートと書かれていないことから、メディアに書かれている内容と異なる部分があるかもしれませんが、以下2記事を参考にして頂ければ。
フットボリスタ: 「パッキング・レート」とは。勝敗に直結する新たな指標
フットボールチャンネル: ハリルJに必要な人材。「持たされること」への懸念。パッキングポイントという評価軸

簡単に言うと1つのパス(プレー)で相手の人数を何人超えたか、というデータで、相手全員を計算対象にしているのが上側のデータ(Opponents)、相手の最終ラインのみの選手を計算対象にしているのが下側のデータ(Defenders)となります。

残念ながら被データが掲載されていないので各チームの攻撃側しか把握できませんね。これだけだと集計してもボールを持って前進させるチームが上位に来るだけで独自性のある指標とは言えません。最終ライン超えの数値と全体の数値で、最後のところでの突破ができたかどうかのチェックはできそうですが。上記記事に紹介されているレートだと、数値のランキングとグループフェーズの突破有無に相関がありそうなので、やはり守備系の数値も必要かと思いますね。FIFAの方ですとサマリーを見た感じ、このデータとボールポゼッションのランキングが割と似ていました。

このデータの方向性はいいと思いますが、少しシンプル過ぎるようにも思います。ピッチ幅にいる全員がポイント対象となるので、サイドの端で縦パスを通しても難易度の高い中央で通しても同じポイントとなることになります。これからも改良されていくでしょうが、自分としてはまだ成長途中の指標と思っています。

新しいデータとして以上2つを紹介しました。サッカーのデータを研究されている方が増えているので今後も新しいデータとの出会いが増えそうですが、試合全体で積算するような指標は、ファンタジーゲームのようなゲーム性の高いものでないと意味がないと思っていますので、もう少し局面を切り取って根本的にチームの特徴や課題が現場の方にも伝わるようなデータが生まれるといいなと思っています。

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